エナジー・ストレージ・サミット・ジャパン
<エネルギー変革の時代を担うスタートアップたち>
日本のエネルギー業界は、エネルギー市場の自由化、再生エネルギーの普及、スマートメーター・IoT・AI技術によるデジタル化と効率化、EVによる動力源のシフト、分散型電源によるスマートグリッドなど、これまでにない新たな展開をみせている。こうした中注目されるのは、革新的な技術と発想でエネルギー及びエネルギー貯蔵に取り組む若きスタートアップたちの台頭と、彼らを支援するベンチャー・キャピタル(VC)の存在だ。
昨年大きな話題になったのは、ビル・ゲイツ、ジェフ・ベゾスや孫正義らが2016年に設立したVC、ブレイクスルーエナジーベンチャーズ(BEV)がエネルギー貯蔵のベンチャー2社に対する投資を発表したことだ。一社めはForm Energy(フォーム・エネルギー)でマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授や元テスラのエンジニアが率いるスタートアップ。硫黄を使った、大容量のエネルギーを長期間蓄電できる、超高効率バッテリーを開発している。他方、Quidnet Energy(クイドネット・エネルギー)は、ダムや川がなくても水を使ってエネルギーを貯蔵する仕組みを開発した。具体的には、余剰電力でポンプを動かし、再利用された油井、あるいは新しい油井を通してシェール層まで水を送り込む。水はシェール層の割れ目に入り込み、圧力が作り出される。発電するときは、水を解放し、押さえつけられていた圧力を利用してタービンを回す。
BEV社は、エネルギー貯蔵は、今後再生可能エネルギーが世界中に普及していく際の大きなボトルネックの1つと捉え、そのミッションの1つを「ペイシェント・キャピタル(忍耐強い資本)」を提供することとしている。つまり、投資に対するリターンを最大20年は求めない方針を掲げている。スタートアップで働く科学者やエンジニアに、世界を変えるようなテクノロジーを開発するために必要な時間を与えるためだ。BEV社は他にもFervo Energy(地熱発電プラントの高効率化技術), Quontam Scape(全固体電池の開発)などへの投資を公表しており、投資総額は1100億円といわれている。アメリカの経済誌フォーブスは様々なジャンルで活躍する30歳未満の若きリーダーたちを ”Forbes 30 under 30”として毎年発表しているが、「エネルギー」のジャンルで選出された30人のうちの半数はエネルギー貯蔵に関連する技術やビジネスモデルだ。
一方アマゾンは、元グーグルの自動運転開発部門トップが創業したスタートアップのオーロラに投資したことを明らかにした。アマゾンはシリコンバレーで最も影響力があるとされるVCのひとつ、セコイアキャピタルが主導するオーロラへの投資総額約580億円の一部を出資している。(正確な金額は非公開)
ドイツでは、電力・エネルギー大手が独自技術を持つスタートアップと協働する動きが先行している。Oxygen Initiative社はドイツ電力大手イノジ―とアメリカのスタートアップKnGridとのジョイントベンチャーで、EVと電力網の統合を目指している。イノジ―のShare&Chargeは世界初のブロックチェーンを活用したpier to pierマーケットプレイスで、ユーザー間での充電スタンドのシェアを可能にするサービス。既にドイツで展開されている。
日本では、大学発のベンチャーにVCが投資している事例を紹介したい。エクセルギーパワーシステムズ株式会社は、東京大学のVCであるUTECが投資をしている、最先端の蓄電池を開発している東大発スタートアップである。また同社はトヨタ自動車、三井住友銀行が出資する「未来創生ファンド」の蓄エネルギーベンチャーへの投資先第一号に選ばれた。独自に開発した水素蓄電池を活用した次世代蓄エネルギーシステム等を開発・製造・提供。水素蓄電池は、超急速充放電特性と耐久性に優れ、パリ協定後に更なる利用が求められる再生可能エネルギーの導入促進と電力系統の安定化の実現に貢献するものとして期待される。
ENECHANGE株式会社はスマートメーターデータ解析に関する研究成果をもとに設立した「ケンブリッジ大学発産学連携ベンチャー」SMAPのCEOでもある城口氏が2015年に創業したスタートアップ。SMAPはドイツに本社を置く、ヨーロッパ有数の大手総合エネルギー会社であるE.ON社が実施するスタートアップ支援プログラム「:アジャイルアクセラレータープログラム」で選出され、今後、電力データ解析事業において同社と協働で実証を進めていくとともに、2万2千ポンド(日本円で約323万円)の賞金を獲得した。またENECHANGE社は昭和シェル石油、住友商事、大和証券など7社から総額7億円の資金調達を得ている。
彼らは、創業は日本であるが、マーケットをグローバルな視点でとらえているところが共通している。
BEVのように、長期的視野に立ち、スタートアップたちの優れた革新的技術の研究開発を後押しするようなVCが今後も増えていくことを期待したい。
6月5日に開催するエナジー・ストレージ・サミット・ジャパンではビジネスモデル成功事例として、彼らのようなスタートアップの登壇を予定しています。ぜひお越しください。
参考文献
- ゲイツと19人のリーダーが1,000億円超のVC設立、目的は「温室効果ガスの削減」
- Forbes 30 under 30 2019 -Energy-
- ビル・ゲイツやジェフ・ベゾスが投資している再生可能エネルギー関連スタートアップ
- 自動運転の新興企業Aurora、アマゾンなどから約590億円の資金を調達
- 『ブロックチェーンxエネルギービジネス』江田健二著 発行:株式会社エネルギーフォーラム
- Oxygen Initiative
- エクセルギー・パワー・システムズ株式会社
- ENECHANGE株式会社