エナジー・ストレージ・サミット・ジャパン
燃料電池駆動列車とソーラー電車
ESSJではこれまでEモビリティ(EV, Eトラック、Eバス、FCV,自動運転等)をキーワードにSNSで情報発信をしてきたが、ひとつだけ、紹介していなかったトピックがあったので、ここで紹介させていただきたい。それは燃料電池駆動列車とソーラー電車である。
2018年9月16日に、世界初の燃料電池駆動列車がドイツ北部ニーダーザクセン州の約124キロの区間を走る14編成のうち2編成で導入された。これは世界初の燃料電池駆動列車の営業運転となる。1編成で最大300人を乗せることができ、運行する州の交通公社は2021年までに全てを燃料電池列車に置き換える予定だ。車両の屋根にあるタンク内の水素と空気中の酸素を化合して発電。架線からは電気を受けずに、モーターを回して走る。床下にはリチウムイオン電池が設置され、走行中にも自動で蓄電する。最高速度は時速140キロで、水素タンクを満タンにすれば1千キロまで走行でき、ディーゼル列車と同等の航続距離だ。将来は風力発電による電気で水を分解して得た水素を使う方針という。この列車はフランスの鉄道車両大手のアルストムが製造し、Coradia iLintと命名された。同社は、2014年に開発に着手、わずか4年で商用化を実現したことになる。その背景にはドイツ政府の強力な支援があったと推測されている。その意図は、これからますます増大することが予測される太陽光や風力といった、出力変動を予測しにくい再生可能エネルギーで水を電気分解して水素を製造(Power to Gas)することによって送電系統の攪乱を抑制することで、その結果として水素を消費する分野を拡充しようという目論見である。Coradia iLintは欧州最大の環境賞である「グリーンテック・アワード2018」を受賞している。
一方、オーストラリアでは、2017年12月に、シドニーから北へ約800㎞に位置するバイロンベイという街に100%太陽電池で動く世界初の「ソーラー電車」が登場した。その仕組みは以下の通りだ。電車の屋根と電車保管庫に設置されたソーラーパネルで電車操業に必要なエネルギーを発電し、電車に搭載されたバッテリーバンクに充電する。また、走行時に駅でチャージもできる。このバッテリーバンクは1回の充電で12~15回の走行に十分な電力を充電できる。さらに、ブレーキをかける度に消費されたエネルギーの25%を再生する再生式ブレーキシステムも採用している。これにより、電車内の電気、牽引、回線管理、空気圧縮機など全てをバッテリーパワーで行うことが可能になった。
これらの列車には、欧州の他の国々も関心を寄せている。フランス政府は2022年までに「水素列車」の導入を目指しているという。また英国でも導入に向けた計画が進行しており、2040年までにディーゼル列車をなくすという同国の目標に貢献するものと思われる。
翻って日本はどうか。日本では鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が2001年から燃料電池駆動列車の開発に着手している。2019年中に所内走行試験開始を目標としており、実用化の一歩手前まできているようだ。2018年9月27日には、JR東日本とトヨタ自動車が水素を活用した鉄道と自動車のモビリティ連携を軸とした包括的な業務連携の基本合意を締結したという発表があった。日本においても、燃料電池駆動列車が実路線走行する姿を一日も早く見たいと願っている。
<お知らせ>
エネルギー貯蔵をテーマとした国際会議エナジー・ストレージ・サミット・ジャパンは
2019年6月5日(水)に東京国際フォーラムで開催します!
参考文献
Coradia iLint (Alstom)
www.alstom.com/press-releases-news/2018/9/world-premiere-alstoms-hydrogen-trains-enter-passenger-service-lower
「燃料電池駆動の列車」山藤 泰
ieei.or.jp/2018/10/column181019/
ieei.or.jp/2018/11/column181108/
ieei.or.jp/2018/12/column181205/
グリーンテック・アワード
www.greentec-awards.com/en
世界初、100%太陽電池で動く電車がオーストラリアでデビュー
ideasforgood.jp/2018/01/06/byron-bay-railroad-company/
世界初「ソーラー電車」 太陽光を蓄電池にためて運行
www.nikkei.com/article/DGXMZO24972750S7A221C1000000/
鉄道総研 燃料電池鉄道車両の開発
www.rtri.or.jp/rd/division/rd42/rd4240/rd42400102.html
トヨタ自動車:水素活用による、鉄道と自動車のモビリティ連携の検討を開始
newsroom.toyota.co.jp/jp/corporate/24633702.html